河内章
河内章

スイス・ドルナッハ村 第2ゲーテアヌム本館。

ここにはルドルフ・シュタイナーに関する世界中の研究書が集まっている。村の有志が集まって毎年ゲーテの神秘劇が開催される。その他絵画展も開かれており当地ならではの独特な色彩と形をもった芸術風景が展開されている。シュタイナーの思想は大変難解ではあるがおおむね近代ヨーロッパがたどった道に対するアンチテーゼで占められる。世界的な特に新興国とアメリカに観られる科学兵器による戦争の合理化(機械的に殺し, 殺される)。思考における理性の歪曲化。あるいは理性中心主義。などは元を正せばヨーロッパ中世の錬金術等と共に発達してきたものであり, さらには遡ってプラトン哲学から始まった人間理性の「自然」に対する(Physisに対するLogosの)優越性を展開している。これは古くから, 自然に対する人間との調和を考えたアジア文明とは大きく異なる。シュタイナーはヨーロッパ人でありながら文明の方向を大きく変えようとしたのである。それでヨーロッパの文化を担う人々はシュタイナーを受け入れている。ヨーロッパ近代においてはこのような異端の思想家が従来の歴史を変えようとして, さまざまな分野において前衛である(画家・文学者・哲学者・音楽家・詩人)人達が異端的な芸術文化を花開かせたのである。特に芸術について大きな衝撃と転回の契機を与えたのがニーチェの「神は死んだ」と言う言葉である。これに対して日本人は従来のヨーロッパ古典的芸術観を懸命に学び異端者達には近づかなかったと言ってよいであろう。ギリシャ哲学に始まる欧米文化と東洋文化との差異をテーマにした場合これらの融合と言うことは、はなはだもって困難である(あるいは高次元)と言わざるを得ない。これは他の場所でもって論じる機会を見いだしたい。唯私はセザンヌやゴッホ・ゴーギャンの後期印象派の画家たちに悲劇的な生涯と不幸の根源を見いだす。社会と芸術の関係はいかにあるべきか。改めて考え直さねばならないと思うのだが日本では未だに近代絵画とは何であったかと言うことも論点が整備されていない。